みなさんこんにちは、ラジローです。
今日は長嶺超輝作、夜久かおり絵『さいごの散歩道』(雷鳥社)について書きます。
認知症の問題
昨今、認知症の問題はその治療方法、当事者の徘徊、老々介護、その介護の苦しさからくる不幸な殺害事件など、大きな社会問題となっています。
先日も認知症による徘徊者について、全国的に報道がなされました。
認知症の不明者1万7000人 18年、6年連続最多
2018年に認知症が原因で警察に行方不明届が出された人は前年より1064人多い1万6927人だったことが20日、警察庁のまとめで分かった。6年連続で過去最多を更新した。統計を取り始めた12年の1.7倍となり、徘徊(はいかい)中に車にはねられるなどして508人が死亡した。
引用:2019年6月20日日経新聞電子版
なんと認知症による不明者の数は6年連続で右肩上がりなんです。数が増えたのは、認知症に対する理解と認知が広がったということで、事件として取り上げる件数が増えたのも一つの原因かもしれません。
しかし、認知症とは診断されず潜在的に行方不明となってしまっている方もいるはず。そのような方たちも含めるとその数はもっと増えることになります。
認知症の新薬の開発は大変困難です。今年の3月、製薬会社エーザイが新薬の開発を中止したことが報道されました。人に広く治験する臨床試験の第3段階での結果が思わしくなかったとのことです。そう、劇的に効く大化な薬がなく、認知症の治療は困難なのです。
厚労省が作成した「オレンジプラン」によると、2025年には認知症患者が700万人に増加すると見込まれています。
認知症の問題は明日は我が身の問題なのです。
『さいごの散歩道』の内容
「車いすの母と息子のハル。認知症の母を一人で介護するハルは、最後の散歩のあと母を自分の手で殺めてしまう。この悲劇にいたるまでには、社会的支援を受けずに孤立して悩み苦しむハルの姿があった。そして裁判が始まり判決が言い渡され、ハルのその後人生が描かれ物語は幕を閉じる」
物語は70ページほどで終える短編小説の部類に入る本だと思います。夜久さんの描く絵のタッチが優しい雰囲気はあるのですが、ハルの眼鏡の奥の目の描写がないことで無表情な感じが際立ち、粛々淡々と母が殺されてしまうまでの悲しみが印象付けられます。
本の物語は実話をもとにしたフィクションであるとのことです。先に述べた認知症患者の家族の誰かが、このような悲しい出来事の当事者なのかもしれません。
この本が突きつけるもの
本の最後には、どうすればハルと母を救うことができたのか。介護離職防止コンサルタント、臨床心理士、介護福祉系弁護士がそれぞれの意見を述べています。
認知症の患者はニコニコしている人もいて、見た目に認知症かどうかよくわかりません。隣人のご家族がもしかしたら認知症かもしれません。でも家族が認知症であることを隠す家庭のほうがきっと多いでしょう。
物語の中で裁判の証人として証言台に立ったケアマネージャーは「(ハルたちの窮状に)気が付かなかった」と述べ、生活保護の相談窓口では「働きなさい」と一蹴されてしまいました。
介護と福祉の専門窓口の方が、ハルの苦しみになぜ気がつくことができなかったのか。他人への無関心だけが原因なのか、日々の業務に忙殺されるケアマネージャーの業務の問題か、生活保護費削減が目的となっている水際作戦が原因なのか。はたまた近所の民生委員は気づくことができなかったのか。
結果論にはなってしまいますが、残念で仕方ありません。
これは子供を道連れにする無理心中も同じことが言えると思います。
末期がんの母を看取ったときも、亡くなる最後の3日間は母は錯乱状態にあり、とてもとても大変でした。母の錯乱状態が「もし1年続いたら」と思うと、私もどこかで心が折れて母に大変なことをしてしまったかもしれません。誰にとっても介護と認知症の問題は明日は我が身なのです。
だから、他人への無関心ではなく自分を助けるつもりの気持ちで、「何か困ったことはありませんか」と声を掛け合える社会を築いていきたいものですね。
以上です。
本日もラジローのブログをご覧いただき、ありがとうございました。